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ごはんで給食フォーラム 平成18年度

基調講演 「食育を子育ての柱として 〜食べ物が身体を育み、食の空間が心を育む〜」


大村直己 (食育コーディネーター)

食ジャンルの調査研究に数多くたずさわり、商品科学研究所主任研究員、セゾン総合研究所主任研究員を経て、2000年4月に独立。群馬大学非常勤講師(2003)、茨城大学非常勤講師(2004)。現在は教育、食生活関連の業界誌等への執筆、「今求められる子どもの食や育」「食を核にして子どもに何を育むか」等の内容で講演活動等を行っている。

豊かさと消費社会が食環境に与える影響とは

 食育という言葉は新しいようで、実は明治時代から使われています。子育てに必要な4つの“育”、すなわち、知育、徳育、体育、食育の中でもとりわけ重要な柱とされてきました。戦前、戦後の食糧難を経て、日本人の食事のバランスが最も良かったと言われているのが昭和40〜50年代の初め。当時の食卓は、ごはん、みそ汁、質素なおかず、この3つを基本とする典型的な和食で、脂質、糖質、タンパク質などのバランスは、諸外国の食文化に例を見ないパーフェクトなものでした。

 それが、昭和50年代あたりから食生活が豊かになり、“豊食”から“飽食”、さらに “崩食”、“呆食”の消費社会へと突入。食に関する情報もさかんに紹介され、テレビで「健康」と特集された食品はたちまち売れ筋商品に。サプリメントで健康維持をあおる情報も氾濫しています。その一方で、昭和40年代は73%あった食料自給率が、今はたったの40%。食の外部化は、食品の安全性を揺るがす問題にもつながっています。日本のフード・マイレージ(輸入量×輸送距離)も世界一で、言い換えれば、世界一エネルギー負荷の高い食生活をしていることに。私たちの食生活は環境問題にも大きく関係しているのです。

現代っ子にまん延する“おかしな食べ方”

 飽食により、生活習慣病も増加しています。生活習慣病は、脂質の過剰摂取、繊維不足、運動不足などが原因と言われています。主食の米は繊維が多い食品ですが、40年代の消費量が100だとすると、今はその半分に減ってしまっています。生活習慣病の若年化も深刻な問題です。子どもたちは、室内でゲームやテレビに没頭。結局体は疲れないので、夜更かししてお菓子に手を伸ばす。すると、朝ごはんが食べられない。そんな負のスパイラルが繰り返されています。

 私は、現代っ子に偏食が多い一番の原因は、こうした間食によりお腹をペコペコにして食べる機会が減ってしまっているせいだと考えています。

 文部科学省のデータによると、運動能力が低下し、元気のない子、欲望のコントロールができない子が増え、さらに、肥満児は30年前と比べ3倍に増えているとか。

 豊かで多忙な消費社会の中で、“おかしな食べ方”がまん延してしまっているのです。そんな時代こそ、食の基本に立ち返ることが大切ではないかと思います。

食の基本、3つのポイント

 食の基本として、第一に挙げられることは“日本の食には文法がある”ということ。「ごはんと一汁三菜」という、主食+副食+汁もの、という組み合わせの食べ方です。

 医師の間では、糖尿病は“粉食”より“粒食”が良いと言われます。子どもの偏食、運動能力低下の予防、精神のコントロールにもごはんとおかずをバランスよく食べられる和食は最適で、七分づきごはんや雑穀入りのごはんなどは、アトピー患者にもいいそうです。

 二番目の食の基本は、「地産地消」「旬産旬消」です。つまり、地域で採れたものを地域で、旬のものを旬に大事においしく食べていこうという考え方です。

 三番目は、食べ物への感謝の気持ち。昔の子どもたちは、料理の手伝いをしながら食べ物=生き物と感じることが多かったように思います。泥つきの野菜を洗ったり、魚をさばいたり、時には鳥の羽をむしったり……。命の大切さを知るお手伝いの機会から「いただきます」「ごちそうさま」という感謝の気持ちを育んできたのです。同じく大切なのが、食材を知ること。田植えや稲刈り体験、野菜栽培、酪農体験などを通して作り手の苦労を知り、食品本来の姿、おいしさを知ることもできます。大量生産、大量流通、大量消費、大量廃棄が進む今こそ、食の基本を見直していくべきではないでしょうか。

学校給食を柱に食育を広めていく努力を

 調理のお手伝いや「食農体験」を通して、親子のコミュニケーションも広がります。こうした場や空間で、「ごはんと一汁三菜」という日本独自の食の文法や「地産地消」「旬産旬消」の意義を学び、食べ物への感謝の気持ちを育んでいくと、自然と子どもたちの生きる力にもつながっていくと思います。

 教育基本法の中でも、「食育は生きる力を育むもの」と書かれています。生きる力とは、自立に向かおうとする意欲です。食べ物が体を育み、食の空間が子どもの心を育んでいく。それによって、心の自立、社会への自立、生活の自立、それぞれに向かおうとする意欲も生まれます。

 食育とは、日本人が長く育んできた“食の知恵”を文化として身につけていくこと。それを“家庭・学校・地域”で考えていくことが重要です。特に、教育の現場での食育は大きなポイントではないかと思います。学校給食の場でも正しい食習慣、ごはんを主食とする味覚や栄養バランスのすばらしさ、収穫、調理、後片付けの大切さを伝えていかなければなりません。