2006年3月、市町村合併により長野県上田市になった長野県小県郡真田町。人口1万1600人、児童生徒数は1,200人という規模のこの町に、近年は県内外からの視察が相次ぎました。真田町は画期的な食育を推進することで、子どもたちの心と体を改善させてきたからです。週五回、町内産のお米を使って提供される「完全米飯給食」の効果を関係者の証言から探ってみましょう。

 真田町の「完全米飯給食」は、大塚貢氏が中心となって進められてきました。米飯給食の必要性を痛感したのは、1992年(平成4年)のことです。「当時、私は中学校の校長だったんですが、いわゆる“荒れた学校”だったんです(当時生徒数1,100名)。いじめ、授業妨害も日常茶飯事。不登校の生徒も60人ほどおりました。全校集会でも貧血で倒れる子が多く、何より授業に集中できない生徒が目立ちましたね」(大塚氏)
 
 そこで大塚氏は生徒に対して様々な調査を実施。そこで判明した、朝食を食べてきていない児童の多さに愕然としたそうです。
「赴任してすぐ調査に着手しましたね。一番ひどい時では、実に35〜38%の生徒が朝食を食べてきていませんでした。食べてきている子どもでも、パンにソーセージ、ハムといったケースが多い。中学生といえば成長盛りなんですが、食べていないから空腹。だからイライラして授業にも集中できないし、いがみ合うんです。当然、貧血の多発もこれが原因になっていたんでしょう」
 子どもたちが直面している事態に気づいた大塚氏は「心の教育」と「学校給食の改善」に取り組み始めました。
「花作りをはじめとして、土から育てた美しいものを大事にしていく。そう、作る喜びを大事にするのが『心の教育』ですね。そしてもう一つ、学校給食の改善にも目を向けていきました」

 当時、真田町の学校給食は週6日制。うち、米飯は2食、パンが3食、麺類が1食という割合でした。大塚氏は、米飯を増やしていく試みを始めます。当然、各所から反発もありました。
「米飯給食の回数を増やして最低4食、最終的には5食にしました。必然的に魚、野菜を中心とした和食の献立になりますよね。子ども、保護者、教師からの反発は確かにありました。『揚げパン、麺類など、子どもが食べたいものを食べさせたい』『こっちがお金を出しているんじゃないですか?』といった声が挙がってきました。そこで、食の改善に力を貸してくれたのが、当時栄養士だった市場祥子さん(現・全国学校栄養士協議会副会長)ですね。彼女が率先して食の大切さを訴え、教師の意識改革もしてくれました。保護者に対しては米飯給食の試食会を開催することで理解を得ました」
 1〜2年後、給食改善の効果は目に見えて現れ始めました。荒れに荒れていた学校も貧血、イライラ、校内暴力も見られなくなりました。全国作文コンクール、合唱コンクール、花壇コンクールでも、毎年全国上位に進出しました。
「栄養バランスは確かによくなりました。でも何より、“美味しさ”が基本。やはり、美味しくないと子どもたちはモリモリ食べてくれませんからね」

 大塚氏は真田町教 育長に就任後、他の真田町の学校も大変な状況だったようで、この取り組みを町全体に広げていきました。しかし真田町でも、完全米飯給食・地産地消について、大反対にあいましたが、米はすべて地場産、低農薬のものに切り替えることになりました。さらに、発芽玄米を10〜13%入れているとのこと。米以外の食材でも、野 のを積極的に取り入れ始めたそうです。
「全学校での花作り、小動物の飼育など『心の教育』では、命あるものを大事にする心が育まれました。
 
 また、学校栄養士が授業を行っておりますから、食と健康についての関心も高まっています。しかし、完全米飯給食については、町全体でやってみて、その効果をはっきりと感じましたね。中性脂肪、高脂血症、貧血、アトピーの生徒・児童はてきめんに少なくなりました。授業、集会などの様子を見ていても非常に集中力が高い。これはやはり、米飯で栄養バランスをとった給食の効果があったんでしょう。親が『インスタントものは買わないようにしよう』と決意するなど、家庭への波及効果も見逃せません」
 現在、真田町では、ここ数年万引も含めて非行は0です。
不登校も小学校0、中学は数人です。学力は全国学力テストで、各校とも全国平均より、極めて高い状況です。

 現在、米飯給食に使用する米は、すべて地元農家が生産した「あきたこまち1等米」。契約しているJA信州うえだが、週一回精米したての米を各校に届けてくれます。
「安全な米、地元産の食材を使っていますが、給食費は上げずにすんでいます。これは中間業者を通さず、直接農協から仕入れているためですね。保護者に給食費の負担を強いることがないのは、地産地消を進めているからでもあるんです」
 
 やはり、地元JAとの関係を密にしているのが大きいようです。また、大塚氏は校長、教師が管理栄養士、養護教諭、調理師と連携体制を強めていくことの重要さも強調。米飯給食を基本とした食育の必要性を訴えました。
「このような改善は自校給食だからできる、センター方式ではできない、という声もあります。しかし、調理員の勤務開始を早めることで、米飯のための調理時間は確保できるでしょう。早く帰ってもらうからトータルでの勤務時間は同じですし。
 そして、校長、教育長が指導力を発揮してトップダウンだからできた、という問題ではありません。現場で、それぞれが『子どもの食をどうするか?』を真剣に考えたからできたことなんです。やる気があれば、いくらでも改善はできると私は思っています」

横澤里美

(長野県上田市立真田中学校 養護教諭)

「担任を通して授業の中で行う食育、健康教育を大事にしています。生活実態調査を随時行っていますが、朝食を食べてきている生徒は増えてきていますね。他校の生徒と比べると集中力の違いを感じます。授業、いろいろな活動の取り組みで真剣に話を聞く姿勢ができていますね」

清水千重子

(長野県上田市立真田中学校 給食調理主任)

「彩りや食感、ゆで加減などにも気を配って、美味しいメニューを子どもたちに出していきたいですね。また、子どもたちのためにはこういうことも苦にならないですね。」

長岡千鶴子

(長野県上田市立真田中学校 管理栄養士)

「キノコ類、大豆を使った豆腐などは年間を通して地元産の食材を使っています。だから、美味しさも全然違います。手の込んだ献立でも、調理員さんがしっかりと受け止めてやってくださるので、和食中心の米飯給食が実現できています」