開催日時:平成18年1月21日
場所:ソフィア・堺(大阪府堺市)

大村直己(食育コーディネーター)

食ジャンルの調査研究に数多くたずさわり、商品科学研究所主任研究員、セゾン総合研究所主任研究員を経て、2000年4月に独立。群馬大学非常勤講師(2003)、茨城大学非常勤講師(2004)。現在は教育、食生活関連の業界誌等への執筆、「今求められる子どもの食や育」「食を核にして子どもに何を育むか」等の内容で講演活動等を行っている。

 飽食が進む中で、子どもの心と体について心配なことが増えてきました。日本はこの40〜50年の間に食の環境、子どもたちの育つ環境も大きく変わっています。
 昭和30年代。「戦後は終わった」ということで暮らしは少しずつ落ち着いてきましたが、まだ日本はつつましい時代です。
 昭和40年代から昭和50年代の頭にかけて、多くの人は「ごはん+おつゆ+おかず」という日本型の食事ができるようになっていました。私たちが何世代にもわたって受け継いできた伝統的な食べ方です。
 昭和50年代に入ってしばらく経った頃から、日本は飽食の時代に入ります。最初の頃は豊かな食の「豊食の時代」と言われていました。そのうち食べ物、グルメの情報もあふれて「飽食」の時代。さらに平成に入ると「崩食」の時代になります。
 日本は世界でもトップクラスの消費社会になり、この20〜30年で日本人の食は大きく変わりました。
 その結果が、生活習慣病の急増につながっています。糖尿病患者はこの10年で倍になり、全国で730万人もいます。もちろん、子どもたちの生活習慣病も深刻になってきています。

 “食の基本”の中でもっとも大事なのが「日本の食の文法」です。ごはんと一汁三菜という食べ方ですね。ごはん、おつゆ、おかずの中にはさらに主菜、副菜がある。今、日本は世界一の長寿国ですが、長寿を支えているのはこの食べ方です。
 二番目は地産地消、旬産旬消です。地域で採れたものを地域で大事に食べよう。旬に採れたものを旬に美味しく食べよう、という考え方です。みなさんご存知の「スローフード」をはじめ、仏教の教え「典座教訓」「身土不二」にもつながります。
 三番目は食べ物への感謝の気持ち。日本には「いただきます」「ごちそうさま」という、素晴らしい食事の挨拶があります。「私の命のために、あなたの命を頂きます」という意味を込めた「いただきます」。美味しいものを求めて野山を駆け巡ってくれた方に対する「ごちそうさま」。
「現代っ子に命の大切さを理解させなければいけない」ということがよく言われます。毎日の食卓からそんな気持ちは育まれていくのではないでしょうか。

 食育基本法の中には「食育とは"生きる力"を育むこと」と書かれています。私は、自立に向かう意欲こそが"生きる力"だと考えます。
 まず、先ほど申し上げた「日本の食の文法」ですね。私たち日本人のDNAに刻み込まれた食の基本形を身につけることです。
 次に食材を知ること。地域のもの、旬のものを知ることから味覚が形成されていきます。そして、手伝いをする中で食の文化を学び、知恵を受け継いでいく。そんな「心の自立」もとても大事なことでしょう。
 最後に大切なのがコミュニケーションですね。忙しい現代ですから、家族で過ごす時間を持つのはなかなか難しいという現実があります。しかし、忙しければ週末に子どもと一緒に買い物をして、料理を一緒に作って一緒に食べて、そして一緒に片づける。そんなコミュニケーションをとっていきたいですね。

 食育に力を入れている保育園、学校では子どもたちに野菜を育てさせる「食農体験」を実践しているところが多いですね。野菜を育てて収穫し、自分たちが調理にも関わる。そういった体験、参加意識が食育につながります。子どもたちは自分が育てた野菜だったら、苦手なものでも必ず一口は食べるそうです。それは次の苦手な食べ物へのチャレンジにつながっていきます。
 知識、技術だけではありません。文化を統合した食の知恵。それを身に付けていくのが食育ではないでしょうか。
 食育は家庭が基本かな、と思いますが、今はなかなか難しい側面もございます。そういった現状では、学校、家庭、地域……いろいろな連携を取りつつ、学校給食を通して食育を広めていく。そこにとても大きな意味があるのではないでしょうか。